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第3章 鼻 2-1

 
 芥川 龍之介の「鼻」は、鼻という器官にいちじるしい特長のある人物だからこそ、おもしろいのだが、この作家が鼻に対して、ほかの作家よりもずっと鋭敏な関心をもっていたように思える。
 たとえば、日本人のプロフィルで、ローマン・ノーズ型の女性は少ない。だからこそ、作家は、たとえ女性の鼻の美しさに心を奪われても、その表現がむずかしいことを知っているのだ。

 ここでは、わざと誰も読まない作家を引用しておく。

 「奥様、あなたは美しいですね。第一その鼻筋が如何にもいい、眼もいいし、その髪の結び方も気に入ったねえ。おまけに色が白さうだし。」
     奥野 他見男 「訪問客」(昭和5年)

 いかにも類型的な表現で、描写としては意味がないことはわかるだろう。
 女の顔のなかで、形態的にもっとも美しい部位にあるものが、ほとんど描写されることがない、というのは興味深い。
 鼻が人間の生理で、もっとも重要な呼吸、嗅覚にかかわりがあるため、描く必要がないからだが、それでも私は問いかけよう。
 美しい女性の鼻はかならず美しい。
 にもかかわらず、私たちは、はたして「クレオパトラの鼻」を想像できるだろうか、と。

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2007年08月22日 19:38に投稿されたエントリーのページです。

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