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 中田耕治 (なかだこうじ)

中田耕治

  ●年 譜
  ●インタビュー
  ●中田耕治を語る
 ●Gallery

作家。1927年、東京に生まれる。
戦後、最年少の批評家として文壇に登場し、『ショパン論』『ゴーゴリ論』などがある。
演劇の演出家としては、「闘牛」(3幕)の演出が代表作。作家として『危険な女』、『異聞猿飛佐助』ほか。評伝『ルクレツィア・ボルジア』、『メディチ家の人びと』、『ブランヴィリエ侯爵夫人』など。また、近作に『ルイ・ジュヴェとその時代』がある。翻訳家としては、ヘミングウェイ、ヘンリー・ミラーなど多数。編・訳も多く、近作に『スコット・フィッツジェラルド作品集』、『アナイス・ニン作品集』がある。

 


information

■Gallery「先生と仲間たち」追加しました。・・2009.7.5


文学をふたたび舞台に
 中田耕治連続講座「現代文学を語る」
 毎月第2土曜日、中田耕治氏を講師にお招きして現代文学講座を開設しています。一人の作家、あるいは一つの作品に焦点を絞り行われる「現代文学を語る」講座。毎回「読み切り」のような講座ですので、初めての方もどうぞ気軽にご参加下さい

→ 中田耕治文学講座 リスト 

<第66回 中田耕治先生連続文学講座>

◆日 時 2010年2月13日(土) 午後2時〜4時30分
◆会 場 武蔵野公会堂 3F 第4会議室
     武蔵野市吉祥寺南町1-6-22
     TEL:0422-46-5121
JR・京王井の頭線吉祥寺駅南口(公園口)徒歩2分

◆テーマ 伊藤整とチャタレイ裁判について

くわしくはこちらご覧下さい。

◆次回開催予定
2010年3月20日(土) 武蔵野公会堂

お知らせ
文学講座の資料のバックナンバー(1部500円)の販売しています。くわしくはお気軽にお問い合わせください。

中田耕治連続講座レジュメ.... 2007.5.17


 





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2010/03/10(Wed)  1164

  立○ ○子さん

 お手紙、ありがとう。とても、うれしかった。

 私は、今、少し長いものを書きはじめたところなんだ。
 何を書くのか自分でもわからない段階の作家は、内心、いい知れぬ不安をかかえている。これから書こうとしているものが、ほんとうにおもしろいものになるかどうか。実際に書きつづけるとして、作品の長さ、サイズはどうなるのか。読みやすいかどうか。
 はたして読者が読みたいと思ってくれるかどうか。それに、だれが読んでくれるのか。読んでもらえるほどの魅力があるかどうか。
 不安は、つぎからつぎに重なってくる。
 だいいち、書きあげることができるのかどうか。

 だからたいていの作家は、自分の前にしらじらしく広がっている茫漠たる空間に、ただ立ちすくんでいる。きみのいう「炯々たる虎のまなざし」なんて、とんでもない。
 もはや老いぼれて、シマシマも色褪せ、牙も抜けて、ヨタヨタの虎は、果てし無い密林(タイガ)をのろのろと歩きまわっている。たまに吠えても、ほんの退屈しのぎか、自分がまだ声をだせるかどうか心配で、よわよわしく咆哮してみせるだけのことなのだ。
 きみは私が「どんな分野でも自由自在に書きわける」才能をもっていて、その幅のひろさに驚いている、という。これまた、とんでもない。私はひどく狭い分野をうろついていただけのことさ。

 はじめてものを書きはじめた頃、先輩の荒 正人がハガキをくれた。
 若い頃のチェホフは、アントーシャ・チェホフというペンネームで、おびただしいコントや、ファルス、滑稽な雑文を書きとばして、医科大学を出た、と。当時、まだ学生だった青二才にこんな助言をあたえてくれた荒 正人の励ましがどんなに嬉しかったことか。
 そこでチェホフにならって、いろいろなものを書きとばしてきた。
 ただし、肝心なことを忘れていた。私には才能がなかった。もう少し才能に恵まれていたら、今頃もう少しなんとかなっていたはずだよ。アホな話だよ、まったく。

 たとえば、児童むきの小説、ジュヴナイルものを書きたいと思ってきた。1冊でも書けたか。児童むきの絵本を翻訳する機会さえなかった。たとえば、ファンタジーを書きたいと思った。1冊でも書けたか。残念なことに、そんな機会もなかった。
 若い頃の私は、依頼された原稿を書きとばしてきた。放送劇からポルノまで。馬琴は、良書を得るために悪書を書くと称したが、私の場合はポットボイラーの仕事ばかりで、まともな作家のやる仕事ではなかった。
 何しろ貧乏作家だったからねえ。
 きみは――「先生のほかに(そんな仕事をする人は)ちょっと見当たらない」という。
 正直のところ、耳が痛い。きみは、私を多才なもの書きと見てくれているようだが、ひいきの引き倒しってヤツだよ。

 きみが久しぶりに手紙をくれた。せっかくだから、もう少しさらりと「アントーシャ・チェホフ」をやってみるか。
 荒 正人に対する感謝の思いは変わらないように、私に手紙をくれたきみにも感謝している。

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